涅槃図

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涅槃図
混合技法 金 ダイヤモンド 210cm×120cm
解説
<涅槃図>について
涅槃とは、煩悩の火が吹き消された状態の安らぎや悟りの境地をいいますが、同時にお釈迦さまの入滅にゅうめつ(死去)のことも意味します。
お釈迦さまはインドのクシナガル郊外の林の中で、一対の沙羅双樹さらそうじゅの間に横たわり、菩薩や弟子たちに見守られながら2月15日(旧暦)に涅槃に入られました。
そのときこの樹は季節はずれの花を咲かせ、お釈迦さまを供養したといいます。
また、東西南北の沙羅双樹がお互いつながり1樹となり白鶴のように白く変化したとも伝わっています(大涅槃経後分より)。
<涅槃図>とはこのような場面を描いたものをいいます。
制作メモ
私がこの絵を描くにあたり一番大切にしたのは「光」の表現です。
その光とは、お釈迦様の涅槃の情景からみて自然光のそれではなく悟りを表す観念的なものです。
そのため、彩色は極力抑え画面全体を闇のイメージとし、そこに金線(同じ線を6回は鉄線描)や金箔、プラチナ箔、ダイヤモンドの粉(木の幹)、自然石(台座)などで輝きを際立たせてみました。

しかし一番問題だったのは構図で「空間感をどう創るか」ということでした。
<涅槃図>について、でも書きましたがお釈迦さまの涅槃の情景には多くの登場人物や事柄が同時進行で行われています。
登場人物は主役のお釈迦さま、静かに見守る菩薩たち、泣き叫ぶ10人の弟子たち、在家代表の王様とお付き、獣代表の獅子などです。また、奇跡的な風景描写は「季節はずれの花が咲き、お釈迦さまを供養した」とか「東西南北に広がる沙羅双樹の林で木々がそれぞれ手をつなぎ1樹となり・・・」とかです。
これらの要素を一枚の画面で表すには通常の遠近法(一点からの視点)では全く歯が立たないため考えた末に、逆遠近法や多視点の方法を取り入れつつ工夫をしてみました。

最後に、残存する涅槃図ではほとんど見られませんが、この図では涅槃に入られたお釈迦さまの表情に静かな微笑みも加えてみました。

PS:全く余談ですが、この「涅槃図」は、2012年12月21日の冬至に奉納されました。忘れもしない、世界中でマヤ文明の神話と暦で人類滅亡説や地球の次元上昇説が噂された日です。が、案の定、何も起きませんでしたね。
そんなわけで、後世の修復師たちはこの涅槃図を、色彩分析の手間もなく治してくれることでしょう。